先日、銀行が口座維持手数料を導入するというような報道がありました。
口座維持手数料は本当に必要なのでしょうか。
口座維持手数料とは
その名の通り、銀行が口座を維持する対価として、銀行口座保有者から手数料を徴する制度です。
この話が出た背景として、昨今のマイナス金利環境などによる銀行の収益力低下が挙げられます。
銀行は預金が集まれば集まるほど、マイナス金利のために日銀に金利を支払うという状況が続いています。
各金融機関、融資や投資による運用でその分をカバーしようとしているものの、融資や投資にもリスクが伴い、相応にコストはかかります。
黙って保有しているだけで預金コストがかかるわけですから、さらにそのマイナス金利が拡大してしまえば、銀行に大きな痛手となるわけです。
そこで収益基盤の補強としては運用収益に加えて、各種手数料で補うのが銀行のビジネスでありますが、着目したのが口座に対する手数料、つまり口座維持手数料というわけです。
昨今、本人確認やマネーロンダリング防止など、口座開設時および開設後のモニタリングコストも含めて、1口座あたりの実施的なコストは上昇してるといわれています。
つまり当たり前のように無料で開設してきたものを、手間暇がかかる、リスクがある、ということに対して手数料を取らないとやってられない(やや荒っぽい言い方ですが)というわけです。
海外の銀行の事例
日本では口座維持手数料というのはこれまで無料、というより概念そのものがなかったわけで、こうした報道がされ大騒ぎ(?)となっているのですが、海外に目を向ければ状況は少し異なります。
実は海外では口座維持手数料は当たり前のようにかかるのです。
さらに預金を多く維持しておけば、口座維持手数料はかからない等、取引の「厚み」に応じて手数料を減免する場合が多いです。
例えば、アジアにおける金融先進国・シンガポールでは、DBS銀行は、口座維持手数料は一月当たり2シンガポールドル(約160円)~4シンガポールドル(約320円)かかり、さらに残高が3,000シンガポールドル(約24万円)を下回ると追加で7.5シンガポールドル(約600円)毎月かかります(口座種類によって異なります)。
米国や欧州でも口座維持手数料は一般的な概念であり、日本だけが特殊ともいえるでしょう。口座を維持するにはそれなりに費用がかかっている、ということです。
口座維持手数料による影響
今後、各銀行がどのような動きをとるかは予測不能ですが、一律で口座維持手数料を取るようなことになれば、手数料を取らない銀行に預け替えとなる動きとなるため、海外同様に、残高維持などの一定程度の取引の「厚み」によっては無料にするなどの対応をすることになるでしょう。
また、手数料を取る代わりに、他のサービスを拡充して全体の満足度を維持することに成功すれば、抵抗なく顧客に受け入れられることになるかもしれません。
そのためには既存の顧客をよく理解したうえで戦略を打ち出す必要があると思います。
ネット銀行などは、その運営コストの低さを武器に、他行が口座維持手数料を取る動きの中でも、引き続き手数料は取らないということも可能かもしれません。そこに魅力を感じる顧客資金はネット銀行に流れていくでしょう。
決済手段の多様化による影響
忘れてはいけないのが、銀行だけが資金を預かる時代は終わっているということです。
銀行法上の預金業務は引き続き銀行だけができますが、〇〇ペイなどの決済ビジネスにおいて、実質的に預金と同様に資金を置いておくことができます。
〇〇ペイなどのフィンテック企業が銀行の決済ビジネスの競合・脅威になっています。従来の銀行が手掛けていたビジネスが、銀行以外のサービスでカバーできてしまってきており、さらに法規制の緩和がそれを後押しする流れとなってきています。
そのような時代の中で、銀行が口座維持手数料を取ることは、他行に行くのではなく、銀行業界からの資金流出も後押ししてしまうリスクもあるとも言えます。
まとめ
今後、銀行によってスタンスは変わってくると思います。
口座維持手数料を取る代わりに、それを上回る魅力ある商品を提供できる銀行、
低コストを武器に口座維持手数料も含めて低価格路線を維持する銀行、
顧客層の違いで手数料体系を変える銀行、
等、各銀行がどのような戦略をとってくるのか注目です。
なお、香港の大手銀行の一部では今年から口座維持手数料を排除する、という動きもあり、世界的に口座維持手数料が常識、という部分が一部で崩れてきている面もあります。
日本の銀行業界だけが世界トレンドから一周遅れとならないことを願います。
では。
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